2010年3月15日

潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)、2007年、フランス

久しぶりに
ほんとうに素晴らしい映画に出会いました

オープニングから間もなく
この映画はすごいかもしれない、
という予感が
さざ波のように
静かに静かに自分の中に満ちてくる

主人公ジャン=ドミニク・ボビーが
まぶたの動きだけで、創り上げた


車の運転中、突然、脳溢血に襲われた彼は
時のきらめきともいうべき、
一流ファッション誌「ELLE」の編集長


華やかな世界から一転、
自らの動かぬむくろの中に閉じ込められてしまう


“ロック・ド・イン・シンドローム”


一命は取り留めたものの、難病で全身麻痺に
それはたとえようもないほど閉ざされた世界

“意識”と“聴力”と“左眼”の機能
それ以外の全てを失った

彼は自分の置かれた状態を
重たく動くことの許されない、昔の潜水服にたとえた
海の底深く、なにものも近づくことのできない闇の世界

生きる意欲は奪われ、
死すら選べない


唯一、左目からこぼれ落ちる光
そして彼を支えるのは音の世界

彼はある日気づいた


「僕にはまだ、“記憶と想像力”という宝物が残されている」

父親、友人、別れた妻、看護士、、、
暖かく穏やかに、それぞれの立場で、
まわりの人々が彼の杖となってゆく


そして、彼は蝶になる


あまりにも鮮烈で、
あまりにも衝撃的で
あまりにもシリアスでありながら
彼の中に残された人間像は、
すばらしいユーモアに溢れている


主演がマチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)(お顔はコチラ)であること
がよかった
彼の異端的な雰囲気は孤独さを誇張し、
ユーモラスさを滲ませる
ほんとうにいい役者だ


ジャンの目線で追うカメラワーク、
瞬き、光の滲み、傾いた映像、画角
それらは、
彼の閉塞感に始まり、不安、安堵、悲しみ、悦び、、、
といった心理描写を見事に描ききっている
監督のジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)へも喝采を


見たものが
涙を流すと言うよりも


誰もが持つ
心の底の傷に滲しみいり、
その傷たちが涙を流しているような感覚に襲われる

彼の片目しか動かない意識そのものが
詩的であり、情緒溢れる人間そのものなのだ


彼は書き上げた小説の出版から数日後に
天に召されたという


dedicate this blog to Mr.Jean-Dominique Bauby



潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)、2007年、フランス
監督:ジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)
脚本:ロナルド・ハーウッド(Ronald Harwood)
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
音楽:ポール・カンテロン
主演:マチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)


オフィシャルサイトはこちら↓
潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)