2019年2月28日

her/世界でひとつの彼女(Her)、2013年、アメリカ

この作品
音と音楽がとても重要な位置を占めてる

音は収録方法を工夫することで
現実とコンピューターとの関係性を
明確に異なる世界として演出している

音楽は景色や思い出、心模様を巧みに表現
所々にでてくるピアノ曲は
最初、モーガン・フィッシャーかなと思ったが違った

アーケイド・ファイアという
北米、カナダのオルタナティヴ・ロックバンドの手によるモノだ
これがなかなかどうして
素晴らしい出来なのだ


僕がオモシロイと思ったのは
ちょっとマニアックで変わった視点だけれども
主人公:セオドアとAI:彼女とで収録方法が全く違うこと
セオドアの声は、全編にわたって
徹底的に周辺の環境音(アンビエンス音)をはべらして
その場その場の空間の広さ・狭さを反映し、
反響音を伴って聞こえてくる

環境音やロケーションごとの台詞の響きが
主人公セオドアをとりまく人間模様や
現実の存在感をさらに現実らしく演出している


これに対して近未来のOS、AIのサマンサの声は
すべて遮蔽空間であるスタジオで収録されており
頭の中で直接的に聞こえるようにできている

あくまでもセオドアの現実世界にかぶせた声は
箱の中から

これによって触れたくても触れることのできない
切なく
吸い込まれるような印象を際立たせている

OSというコンピューターの中(箱の中)の恋人という設定が故
そして、近未来のAI(人工知能)像が如何に人間的であっても
永遠にふれあうことのできない関係性が故
明確な違いが必用なわけだ
(そこでほんとうにふれあってしまう超SF映画ではない)
それを映像だけでなく、音としても
しっかりと演出している


セオドアが現実逃避するようなシーンでは
声がアフレコでスタジオ収録されているように聞こえるシーンもある
それでも環境音だけは
概ねあえて絶えまなく流れている
(ある程度ボリュームを上げるかヘッドフォンで聞かないとわからないかも)
この映画
主演がホアキン・フェニックスであることで
作品に独特の世界感をもたらしている
素晴らしいキャスティングだ
純粋なオジサンでちょっぴり変わったオジサンで普通のオジサン
これを演じたさせたら天下一品だ

僕は日本語吹き替え版と字幕版の両方を見た
両方見る価値があると思う
順番は吹き替えが先
(スカーレット・ヨハンソンの声は印象が強いから)
(それと、映像の空間でのリアルな反響音を伴った台詞は字幕版でしか味わえないから)

人工知能型OSである恋人役
声だけの出演はスカーレット・ヨハンソン
ハスキーなかすれ声が頭の中で語りかける
声だけでも十二分に存在感がある
あえてAIちっくなしゃべり方をせずに
普通に人間らしく語りかける

だからこその、細かな演出の配慮が必用なのだろう

日本語吹き替え版は林原めぐみ
彼女の声はくすぐったいようなかわいらしさと
温かいようで、どこかクールな
不思議な温度感の印象で
原作とは違った良さがある


★her/世界でひとつの彼女(Her)、2013年、アメリカ★
u-san<81点>

舞台は近未来のロサンゼルス
セオドアは他人の手紙を代行して書く代筆のライター

頭脳明晰で美人の前妻キャサリンから
いろいろな面で置いてきぼりをくっていたセオドアは
別居、離婚されてしまう
セオドアは社会との接点に
様々なことに、臆病になっていた

ある日出会った人格をもつ最新の人工知能OSサマンサ
生身の人より人間らしい彼女への募る恋
サマンサのことばをとおして
セオドアは心の内面を開放していく

AIとのセックスシーンでは
何も写らない真っ暗な画面に
字幕と声と音楽だけ

サマンサは、代筆という才能を除いて、なにも成功していなかったセオドアに
代筆をまとめた本の出版という
仕事の成功のきっかけをもたらす

挿入歌の「・・・100マイルのかなたへ・・・」
歌詞といい
スカーレット・ヨハンソンの歌声といい
とてもいい
ものすごくいい

日本語吹き替えの林原めぐみの歌声もすばらしく
まるで心地よいフレンチポップのようだ


セオドアの元カノで、心からの親友エイミーは言う
恋ってクレイジーなもの・・・
それは
「・・・社会的に受容された狂気」
と、
たしかに
そのとおりなのかもしれない


ベッドの上に差し込む光、、、
光の中をあてどもなく漂う小さなチリ、、、
ごく一部を切り取った狭い映像空間であっても
そこには無限とも思われるほど
チリとチリとの間の空間が広がっている、、、


この作品
最後にオチを求めては
いけないのかもしれません


やっぱり
サマンサは、、、

セオドアは、、、

エイミーは、、、

(見てない人のために、何を言いたいかはナイショ)


her/世界でひとつの彼女(Her)2013年アメリカ
監督・脚本:スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)
主演:ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)


とてもシンプルな出来映えの作品
僕にとってはとても良い刺激になった
マンネリ化・商業化の一途のなか
映画界へも大きな一石を投じたのではないだろうか






2012年1月16日

イレイザーヘッド(ERASERHEAD)、1977年、アメリカ


イレイザーヘッド(ERASERHEAD)、1977年、アメリカ

この作品については
コメントを書くべきかどうか
普通にためらってしまう

海外ドラマの火付け役でもあった
ツインピークス」では
猟奇的で不可解
どことなく浮遊感のある
非現実的な世界に圧倒され、

ブルーベルベッド」では
退廃的で
暴力とエロティシズムの世界に
見るものをも引きずり込む

常に
“普通”とは異なる
目で、耳で、
どこか、違和感というものを
見分け、聞き分け

あるいは脳で直接感じざるをえない
映像体験に近い
そんな作品を生み出す
デヴィッド・リンチ(David Lynch)

製作・監督・脚本・編集・美術・特殊効果
を全て一人で努めた長編映画デビュー作

一般の映画好きの方は
見ない方がよいかもしれません
覚悟してみるべき映画です

ホラーやカルト系の映画が好きな方には
傑作と呼べる作品かもしれません


u-san<0点:一般の人向け><79点:マニア向け>

イレイザーヘッド

死への恐怖ではなく
生への恐怖を
描いた作品ではないだろうか

社会全体が不安というよどみの中に
埋もれ、決して抜け出すことはできない
そのことにすら気づくことのできない
閉塞した社会
まさに、現代社会を誇張し、

もし、抜け出すことができるとすれば、
それは妄想の精神世界だけ
主人公ヘンリーを演じたジャック・ナンスMarvin John Nanceは、
この作品を機に不可解な人生を送ることになる


命というものの不可解さ
性への恐怖と倒錯

人間がつくりあげてきた
命の尊さ
遺伝という名の
受胎という名の
性がつなぐ不可思議な現象

それらを
見事に、そして
いびつに描き出している

若かりしデヴィッド・リンチの世界

現実と逃避
その
ゆがみきったいびつな世界
奇妙そのもの=違和感こそが
魂の根源である
とでも言おうとしているかのような

しかし、
実はいびつで
これ以上にゆがんでいるのは
現実の方なのかもしれない

In Heaven everything is fine/David Lynch

元来、人間が持っている
生に対する
得も言われぬ不安
そして
快楽と引換の不安
というものを

誰も見ようとしない
足を踏み入れようとしない
語ろうとしない
領域から
見事に引きずり出している

デヴィッド・リンチの恐るべき処女作
彼が鬼才と呼ばれる所以は
ここにある


イレイザーヘッド(ERASERHEAD)、1977年、アメリカ
監督・脚本:デヴィッド・リンチ(David Lynch)
主演:ジャック・ナンス(Marvin John Nance)

この作品で、デヴィッド・リンチは
製作・監督・脚本・編集・美術・特殊効果を一人で制作・監修し、
そのほかの製作チームの5人と共に、
個人資金と5年の歳月をかけて完成させた映画だそうです。






2011年3月2日

告白,2010年,日本

正義とか悪とか、
いい人とか悪い人とか、倫理だとか、
そんなことを論ずるよりも、まず、
目の前の現実、
そして、人間と向き合え!

監督の強い意気を感じます。


★小説「告白」 湊かなえ2008年(第29回小説推理新人賞受賞)★

「これを映画にしよう思う監督の勇気に、
一緒に加わりたいと思いました。」 主演 松たか子

「・・・きちっと向き合うっていうの、、、人間の感情みたいなものは、
ちゃんと、お客さんに伝わるだろうなって気がした、、、。
残酷だとしてもちゃんと最後までつくるしかない。」 監督・脚本 中島哲也

このふたりの言葉が、この作品の全てではないでしょうか。

高校教師(松たか子)とその教室の生徒たち、そして家族
その告白は一見、奇異でありながらも、
それぞれの立場においては、変えることのできない
真実であり現実なのだ。

私たちは同じくして

すでに、この奇怪なパラダイムの渦の中へ
日常的に飲み込まれているのではないでしょうか?



己の内側に呑み込まれてゆくもの、、、
己の外側を気にするあまり
烏合の衆と化し、己を失ってゆくもの、、、
人の深層心理をあぶりだすような
(邦画としては)かなりセンセーショナルな内容です。

★映画「告白」 監督・脚本 中島哲也 2010年(第34回日本アカデミー賞受賞)、日本★
u-san<88点>

静けさ、日常、どこかノイジーなザワメキ、
音楽による意図的な誘導、
そして、逃避したくなるような、浮遊するリアリティーと非現実感。

どこかデビッド・リンチにも通じるような脚本と映像美は、
時計仕掛けのオレンジやブルーベルベットを思い起こさせる
(そこまで奇天烈ではないにしても、、、)

居心地の悪さを感じながらも
でも、向き合わざるをえない。
いや、向き合わせるように、


むしろ、目を背けられないようにつくり上げているようにさえ思える。
そのことが、この作品を深め、
さらには大きな価値を見いだしているのではないでしょうか。


映像と音楽のもつ力、間、調子の上がり・下がり、テンポ、
とても小気味よくつくられていて、
日本映画(中島監督の?)の新たなスタイルを提示されたようにさえ思えます。
中島監督のこれからの作品が非常に楽しみです。



告白,2010年,日本
監督・脚本:中島哲也
原作:湊かなえ
音楽プロデューサー:金橋豊彦
主題歌:「Last Flowers」レディオヘッド
挿入歌:「RIVER」AKB48
主演:松たか子

→松たか子オフィシャルクラブ
→AKB48オフィシャルサイト









2010年3月15日

潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)、2007年、フランス

久しぶりに
ほんとうに素晴らしい映画に出会いました

オープニングから間もなく
この映画はすごいかもしれない、
という予感が
さざ波のように
静かに静かに自分の中に満ちてくる

主人公ジャン=ドミニク・ボビーが
まぶたの動きだけで、創り上げた


車の運転中、突然、脳溢血に襲われた彼は
時のきらめきともいうべき、
一流ファッション誌「ELLE」の編集長


華やかな世界から一転、
自らの動かぬむくろの中に閉じ込められてしまう


“ロック・ド・イン・シンドローム”


一命は取り留めたものの、難病で全身麻痺に
それはたとえようもないほど閉ざされた世界

“意識”と“聴力”と“左眼”の機能
それ以外の全てを失った

彼は自分の置かれた状態を
重たく動くことの許されない、昔の潜水服にたとえた
海の底深く、なにものも近づくことのできない闇の世界

生きる意欲は奪われ、
死すら選べない


唯一、左目からこぼれ落ちる光
そして彼を支えるのは音の世界

彼はある日気づいた


「僕にはまだ、“記憶と想像力”という宝物が残されている」

父親、友人、別れた妻、看護士、、、
暖かく穏やかに、それぞれの立場で、
まわりの人々が彼の杖となってゆく


そして、彼は蝶になる


あまりにも鮮烈で、
あまりにも衝撃的で
あまりにもシリアスでありながら
彼の中に残された人間像は、
すばらしいユーモアに溢れている


主演がマチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)(お顔はコチラ)であること
がよかった
彼の異端的な雰囲気は孤独さを誇張し、
ユーモラスさを滲ませる
ほんとうにいい役者だ


ジャンの目線で追うカメラワーク、
瞬き、光の滲み、傾いた映像、画角
それらは、
彼の閉塞感に始まり、不安、安堵、悲しみ、悦び、、、
といった心理描写を見事に描ききっている
監督のジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)へも喝采を


見たものが
涙を流すと言うよりも


誰もが持つ
心の底の傷に滲しみいり、
その傷たちが涙を流しているような感覚に襲われる

彼の片目しか動かない意識そのものが
詩的であり、情緒溢れる人間そのものなのだ


彼は書き上げた小説の出版から数日後に
天に召されたという


dedicate this blog to Mr.Jean-Dominique Bauby



潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)、2007年、フランス
監督:ジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)
脚本:ロナルド・ハーウッド(Ronald Harwood)
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
音楽:ポール・カンテロン
主演:マチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)


オフィシャルサイトはこちら↓
潜水服は蝶の夢を見る(LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON / THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY)





2009年7月11日

ウォルター少年と、夏の休日(SECONDHAND LIONS)、2003年、アメリカ


とても、まっすぐで
単純でかわいらしい映画

親の愛を受けずに育った子供
子供のように人生を力一杯走り抜けた老人2人

人生の良き師に出逢った子供は、大人へと成長してゆき
子供嫌いで人を信用しない、頑な老人達は子供によって心を開かれてゆく

大人として子供に伝えるべきことが
半分おとぎ話のようなシンプルなストーリー展開を通して語られてゆく


u-san<87点>


とてもシンプルで先の読めるストーリー
だけれども、
ユーモアと真の愛情・行動からは
いくつもの芽が伸びてくる

「大切なことは、それが真実かどうかではなく、それを信じるか否かだ」
「人は生来 善なるもの。自らの誉れ、勇気、高潔さこそが全てだ」

いつの時代からか
日本の教育からはこういう教えが消えてしまった


子供の成長の過程で見せたい映画だ

主演は名子役ハーレイ・ジョエル・オスメント
脇を固めるのは名優ロバート・デュヴァルマイケル・ケイン
この作品にぴったりのすばらしい俳優陣だ


ウォルター少年と、夏の休日(SECONDHAND LIONS)、2003年、アメリカ
監督・脚本 : ティム・マッキャンリース(Tim McCanlies)
主演:ハーレイ・ジョエル・オスメント(Haley Joel Osment)


2008年8月14日

世界最速のインディアン(THE WORLD'S FASTEST INDIAN)、2005年.ニュージーランド・アメリカ

まっすぐに夢を見据え
人生の終盤を走り抜けた男

子供のような純真さと
懐の大きな大人のこころ
そして溢れる情熱が自分を支え、人々を惹きつけてゆく

やがて彼は60を越えてから世界最速にチャレンジする


u-san<91点>

これが実話だというのだから驚きだ

人生をたのしみ、ユーモアとともに生きてゆく姿は
是非、子供が大きくなったら見て、感じて欲しいと思う

実在したモデルのバート・マンローに乾杯!
円熟の名演を見せてくれたアンンソニーホプキンスに乾杯!
素晴らしい映像に仕上げた監督ロジャー・ドナルドソンに乾杯!

veropon<93点>

「シワは多くても心は18だ!」

映画の中で主人公扮するアンソニーホプキンスが語った

セリフのこのひと言、素晴らしい!

年だけ大人で中身は稚拙な子供のような輩がいることも
確かだがこの主人公はとてもピュアなのである

「どれだけスピードが出るのか、それを確かめたい」


とてもシンプルな疑問をとんでもない方法で挑戦する
周りの人に愛されながら、少しずつ夢に近づいていく


一緒に彼の夢に乗っかっている気分になる
インディアンに乾杯!

インディアンとはアメリカで最も古いオートバイブランド
インディアン・モトサイクル(Indian Motocycle Company,Inc )のバイクのこと



世界最速のインディアン(THE WORLD'S FASTEST INDIAN)、2005年.ニュージーランド・アメリカ合作
監督・脚本:ロジャー・ドナルドソン
主演:アンソニー・ホプキンス(Sir Philip Anthony Hopkins, CBE)
1000cc以下のオートバイの地上最速記録保持者バート・マンロー実話に基づく映画(ただし、脚色多用していて、ノンフィクションではない)






2008年7月21日

ブラックブック (BLACK BOOK,原題ZWALTBOEK)、2006年、オランダ

時は第二次大戦のオランダ
戦争という抗えない時代の流れにのみこまれた主人公
運命は津波のように何度も何度も押し寄せる
それでも正しいと信じたものをその手にしっかりと握りしめ、
愛すべきを愛し、必死に生き抜く力は真っ直ぐでぶれない


u-san<91点>


真実と事実との間を巧みに展開するポール・バーホーベンの“見せ方”は古典的でもあり、斬新でもあり、
映画を知り尽くした監督ならではの醍醐味があります
主役のカリス・ファン・ハウテンは様々な“顔”を持ち、
年齢よりも経験豊かな世代の女優だと感じさせてしまう
配役・脚本・演出共に素晴らしいおすすめの映画


veropon<96点>

たくさんの裏切りが彼女の運命を変えて、

その中でも強く美しく生きる
主人公の姿に素晴らしさを感じました
「生きぬく」という言葉にとても重みを感じた作品でした


ブラックブック (BLACK BOOK,原題ZWALTBOEK)、2006年、オランダ
監督・脚本:ポール・バーホーベン(Paul Verhoeven)
主演:カリス・ファン・ハウテン(Carice van Houten)